学生の答えが未習語にならない教案を書く

 直接法で教える時は語彙コントロールに気をつけなければなりません。教師が話す言葉の中に未習語が入らないように、教案を書く時点で語彙をチェックしておく必要があります。そのためには、教案に「~であることを説明する」というような書き方をするのではなく、きちんと一字一句、教師の発話を書いておくことが大切です。

 では、教師の発話だけをチェックすれば語彙コントロールのできた授業ができるかというと、そうではありません。授業は学生との対話で成り立つものですから、学生の発話についても語彙コントロールに気を配る必要があるのです。学生の発話の場合は、まだ習っていない語彙を話すということはあり得ませんから、ここで気を付けるのは、学生が発話しようと思っているのだけれども、その単語を日本語で何と言うのかまだ習っていないので、言いたいことが言えなくて困ってしまう、という状況をできるだけ作らないということです。

 学生に発話させる場合、機械的にパターン練習をするのなら、語彙コントロールの問題は基本的に起こりません。学生に言わせる単語、話させる文は教師が用意したものですから、教案を書く時点でチェックできます。しかし、パターン練習を離れて自由に答える練習をする場合は、学生の発話内容を事前にチェックすることはできません。自由に答える練習をする場合、教師が質問すると、学生の頭には「これが言いたい」と、母国語の文が浮かびます。続いてそれを日本語に置き換える作業が行われるのですが、質問の内容によっては、日本語に置き換える過程で「この単語は日本語で何と言うのだろう。まだ習っていない。言えない」という状況が発生します。これは、質問自体は既習の語彙・文型で行なっているが、答え方が難しいという場合に起こります。

こういう場合、学生は辞書を調べて答えることも可能なのですが、調べている間に授業がストップしてしまいます。一度や二度ならいいのですが、教師が質問するたびにこういうことが繰り返されると、授業の流れが悪くなり、そのたびに時間がなくなっていきます。時間内にできるだけ多くの発話練習をするためにはこういう事態を避けたいものです。

では、どうすればよいでしょうか。それは、学生の答えを予測して教案を書くことです。「どうして」を使った練習を考えてみましょう。

(学生Aがコーヒーが好きだということを教師は知っている)
教師:「Aさんはどうして毎日コーヒーを飲みますか」
学生A:「コーヒーが好きですから」

という練習は可能ですが、少し質問を変えて、

教師:「Aさんはどうして日本へ来ましたか」

になると、とたんに答えるのが難しくなります。質問された学生は、来日するまでのいろいろな経緯が頭に浮かぶでしょう。それを母国語から日本語に変えようとするのですが、まだ習っていない単語や文法が次々に出てきて、結局は正直に答えるのをあきらめざるを得ないのではないでしょうか。

 こうなっては会話練習にならないので「この質問をしたら、学生はおそらくこんな答えをするだろう」という予測を立てて教案を書く必要があるわけです。もしここで教案に、「どうして」を使って学生に順に質問していく、としか書いていなかったら、「質問も決まっていない」「学生の答えも予測できていない」ということで、教案としては使えないものになります。

教案には質問を並べるだけでなく、答えも予測しておき、学生が既習の語彙・文型の範囲内で答えられるかどうかも確認しておきましょう。

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