教材に変化を付けて視覚に訴える

 日本語を直説法で教える場合、教師の話せる日本語には制限があります。学生が疲れてきたなと思った時に、気分転換のために少し授業と関係のない話をしようと思っても、単語や文法に限りがある状況では雑談もできません。そこで、授業と関係のない話をせずに、練習をしながら学生を退屈させない方法を考える必要が出てきます。

 前回は学生を退屈させずに練習を進める方法の1つして「視覚に訴える」というやり方を紹介しました。教師の発話がたとえ既習の単語や文法ばかりであっても、学習初期の学生にとっては集中して日本語を聞き続けるのは大変です。学生から見た視覚情報が目の前の教師だけで、あとは日本語の音声のみという状況が長く続くと、すぐに疲れてしまいます。それよりも、目の前に絵カードがあったほうが、学生は安心して練習ができます。ここでは練習を視覚的に工夫する方法を考えてみましょう。視覚に入る情報としては、

「絵カード(または写真)」「実物」「フラッシュカード(文字カード」「教材なし」

などがあります。

 絵カードを使う利点の1つは、教師が提示した瞬間に、学生の注意をそこに引きつけることができるというところにあります(これは絵カードに限らず、写真でも実物でも同じ効果があります)。クラスサイズによりますが、小さいカードは見にくいので、コピー教材などを使う場合は、なるべく大きくしておきましょう。時々、1枚のコピー用紙にいくつかの絵を貼っているものを見ますが、学生の目の前に持っていかないと見えないような大きさにはしないように注意してください。

 絵カードには白黒のものとカラーのものがありますが、白黒でずっと練習を続けて、次の練習でカラーに変えると、それだけで視覚的な変化になります。また、絵で練習を続けて、急に写真が出てくるというのも視覚的な変化です。特に、絵で長く練習したあとに写真が1枚出てくると、それだけで学生は興味を持ちます。導入に集中させたい場合は、それ以前の復習では写真を使わないで、導入で初めて写真を使うというやり方もできるでしょう。

 教材なしで、教師が立ったまま口頭で指示するだけ、というのは、これだけが続くとすぐに退屈してしまいます。しかし、それまでずっと絵教材や文字カードばかり見続けたあとで、急に何もない状態になったら、これはこれで1つの視覚的変化です。学生は教師を見るしかありませんから、パターン練習から教師とコミュニケーションを取る対話練習へと切り替える際に、黒板に貼った絵教材などをいったんクリアーにして、学生の目を教師に集中させるということもできます。教材を使わない方法は、他の教材を使う方法と組み合わせて、視覚的変化の1つという役割を持たせることができるでしょう。

 1枚の写真でも提示の仕方によっては、そこで学生に発話を促す機会にしたり、文型導入を効果的にしたりという使い方ができます。教案を書く際には、教材に変化をつけるという観点にも気を付けましょう。

タイトルとURLをコピーしました