リピートは全員から個人という順番で

 会話ができるように指導するためには、その文法を口に出して練習させることが必要です。練習の順番としては、まず「教師の正しい発音・イントネーションをまず聞いて、それを真似する」ところから始めます。いきなり学生に質問にするのではなく、まず教師のモデル発話をリピートすることが重要です。

 このリピートのさせ方ですが、クラスレッスンの場合は、まず全員でリピートすることから始めるのが基本です。教師養成講座でよく見られるのは、新しい文法を教えてすぐに、「では、Aさん」と個人に指名してしまうやり方ですが、これは適切なやり方ではありません。なぜ新しい文法を個人にリピートさせてはいけないかというと、当てられた学生にプレッシャーがかかるからです。特に日本語学習を始めてすぐの学生はまだすらすらと口が回らないので、教師に指示されたり質問されたりすることに不安を感じています。指名されてうまく発音できなかったらどうしよう、とか、質問に正しく答えられなかったら恥ずかしい、と思いながら授業を受けています。学生としては、できるだけ間違えずに正しく発話したいと考えているのです。

 こういう場合、全員でリピートすれば仮に1人が言い間違えたとしても目立たないし、自信がなくて小さい声で発音しても、他の学生が元気よく発音していれば大丈夫です。積極的で自信のある学生はたいてい意欲的にリピートするので、自信のない学生はよくできる学生についていくような感じでリピートすることができるわけです。こうして全員でのリピートを何度か繰り返すと、あまり理解できていなかった学生、自信がなかった学生も含めて全員が正しくリピートできるようになります。ですから、全員でリピートとする回数は1回だけでなく、何度も繰り返さなければなりません。

 学習初期の段階では、新しい未知の言語に慣れるのに時間がかかりますし、教師が発話したモデル文をすぐに反復するということも簡単ではありません。学生は1回1回の発話に大きなプレッシャーを感じているのが普通です。ここで言い間違えて、教師に訂正されると、自信が失われます。教師側が「間違えてもいいですよ、リラックスして発話してください」という雰囲気を作っていればいいのですが、新人教師の場合は、教える側も同様に教えることにプレッシャーを感じているので、つい、訂正に力が入ってしまいます。すると、できなかった学生を責めるような訂正の仕方になり、間違えた学生は、次にまた指名されたらどうしよう、とますます萎縮することになります。

 このような悪循環に陥らないためには、できるだけ発話する学生が間違えないような進め方、たとえ間違えても目立たない練習方法が必要です。いきなり個人に指名すると、学生が間違える確率が高くなります。反対に、まず全員でリピートすれば間違えても目立たないし、何度も全員でリピートしているうちに正しい言い方が分かってきます。全員でリピートして、クラス全体が正しく言えるようになったことを確認してから個人に指名する、という順番なら、当てられた学生も安心して発話できるでしょう。

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