日本語の初級のクラスでは、学生はまだ少ししか日本語が理解できません。教師が教えた単語や文型を繰り返しながら、少しずつレベルを上げていく段階です。直説法で教える場合、教師は基本的に日本語だけで授業をしますから、単語を教える時も、文法を教える時も、絵や写真、実物教材を見せたり、ジェスチャーを交えたりしながらということになります。
直接法で教える、つまり媒介語を使わないということは、教師と学生の間の会話は日本語だけです。そして、学生はまだ日本語を勉強し始めたばかりですから、教師の話せる日本語はテキストが進んだところまでに限られます。テキストが3課まで進んでいれば、教師が話せる日本語は3課までに出てきた単語と文法だけです。これ以外の単語や文法を使っても、学生はまだ習っていないので理解できないわけです。
こういう状況ですから、特に初級クラスでは教師の話せる日本語は常に制限された状態です。授業中に学生が少し疲れてきた、退屈してきたという様子を示した時に、媒介語を使用できるクラスであれば、教師は媒介語を使って彼らの興味のある日本文化の話(例えばアニメやゲームなど)をしたり、授業と関係のない雑談をしたりして気分転換をするこが可能です。
しかし、直説法ではこういう雑談は1つもできませんから(しようと思っても、使える単語や文法に制限があるので)、日本語の勉強そのもので学生の興味を引きつけ、退屈させないようにしなければなりません。では、気分転換の雑談など全くできない状況で「単語を教える」「文法を教える」「練習しながら単語や文法を定着させる」という作業を行うにはどうすればいいでしょうか。
まず1つ目の方法は、視覚に訴えるということです。学習の初期段階では、学生はまだ慣れない日本語を長時間集中して聞くことができません。努力して聞き続けようとすると、すぐに疲れてしまいます。こういう場合、視覚情報が同時にあると学生の負担は軽くなります。例えば、単語を絵と同時に提示するというやり方です。
たとえ教師の発話が既習の単語や文法ばかりであっても、耳だけで聞き続けるのは学生にとって不安でしょうし、学生から見た視覚情報が目の前の教師だけという状況では集中が続きにくいのではないでしょうか。
「友だちとデパートへ行きました」
(キュー「レストラン」)
↓
「友だちとレストランへ行きました」
のような「~へ行きます」の代入練習をするとしましょう。この場合、絵を提示せずに、教師が口頭だけでキューを出すよりも、「デパート」「レストラン」の絵を提示しながら発話させるほうが学生が疲れないでしょう。目の前に視覚情報があり、それが次々と変化すると、それだけで退屈しないという効果があるのです。
