日本語を教えるための真の実力をつけるには、中級から教えるのではなく、初級を最初から教える経験をすることです。初級を最初から教える経験をすると、
・必要なことだけを説明する。
という技術が身に付くからです。中級では、学生はある程度日本語が聞いて分かるので、教師も一生懸命説明しようとします。しかし、一生懸命説明しても学生がすっきりと理解できるとは限りません。反対に、説明すればするほど学生が混乱することも少なくありません。
中級の学生が知りたいのは、これまで初級の頃からずっと習ってきた多くの文法と今習っている文法との違いは何かということです。ですから、「この部分の意味は共通だが、ここの部分は違う」「この文法はこういう時に使う」というように、既習の文法との違いを簡潔に説明しなければなりません。しかし、新人の先生は初級を教えていないので、学生がどの程度の文法知識を既に知っているかが分かりません。そのため、「そこは知っているから説明しなくていい」ということまで説明してしまう場合があります。
また、「今はこの点について教えるだけでよい」というところで、必要以上に説明範囲を広げて、テキストの意図を超えてしまったり、学生の現在のレベル以上のところまで教えてしまう、ということもあります。結果として、簡潔に説明することができず、実際はもっと短い説明で済むところをあれこれと説明を増やして、余計に難しくしてしまうことになります。新人の先生としては、「詳しく説明すればするほど学生の理解は深まるはず」「短い説明では不親切で理解も不十分になる」という気持ちが強いのでしょう。
さらに、必要以上に長い説明は、説明に含まれる語彙・文法の点からも問題です。初級を経験していない教師が教える場合、学生が聞いて理解できる語いや文法がどの程度なのか、ということが意識化されていません。そのため、教師が説明に使う言葉の中に、学生が聞いても分からない単語や文法が次々と出てきて、それがさらに学生の理解を難しくさせるからです。
・説明が簡潔でない(必要以上に説明している)。
・説明に使う言葉が難しい(学生が理解できる範囲を越えている)。
このあたりが、中級からスタートする新人の先生によく見られる授業です。学生が分かりやすいようにすっきりと説明するためには、この反対、つまり、
・説明を簡潔にする。
・学生の既習の語い・文法で説明する。
ということを心がければよいのです。そして、こういう説明のための技術を身に付けるには、初級を教えるのが一番だということです。
初級の最初から直説法で教える場合、学生に対して日本語で説明するということができません。いくら日本語で説明しても相手には通じませんから、単語を1つ1つ積み重ねながら学生に理解してもらうように努力しなければなりません。こういう努力を続けていくうちに、自然と「必要最小限の単語で相手に理解してもらう」「短い文で理解してもらう」という技術が身に付いてくるわけです。
