単語1つ、文法1つを慎重に扱う

 養成講座では外国人学習者相手に毎回実践演習をすることが難しいので、受講生同士で演習をすることが多くなります。この場合は、受講生が外国人の日本語学習者の役をやります。このタイプの演習をすることの弊害として、

○「外国人役の日本人」が、導入したばかりの文法をすらすらと話してしまう。

という点をあげました。今回、もう1つの弊害をあげてみます。それは、

○導入がうまくいかなくても、うまくいったように見えてしまう。

という点です(今回の話は直説法で教えることを前提にしていいます)。

 実践演習では、受講生が教えるのは「外国人の役をしている日本語母語話者」です。つまり、本当は日本語が十分わかっている人たちです。しかし、日本語学校等の実際の授業で教える相手は、日本語が分からない外国人学習者です。当然、同じことを教えていても反応は違ってきます。
外国人学習者が相手だと、授業をしている時にもし知らない単語が出てきたら、学生は、

「えっ、今、先生は何て言った?」「今先生が言った単語の意味は何だろう?」

という反応をします。学生にとって分からない単語が次々に出てきたら、講師が説明している内容はもう全く分からなくなってしまいます。おとなしい学生だと我慢して授業を聞いているかもしれませんが、積極的な学生だと、

「今先生が言った単語の意味が分からない」「もう一度説明してほしい」

というようなリクエストが出てきます。単語1つでも、慎重に扱わなければならないのが本物の授業です。
 同様に、文法に関しても、既習の文法と未習の文法を区別して、未習の文法は使わないという原則を守って説明していかなければなりません。未習の文法を使えば、学生は文の意味が理解できなくなるというのは単語の場合と同様です。
 特に日本語学習の初期段階は、単語や文法の扱いに神経をとがらせなければならず、時には非常に緊張感のあるものになります。しかし、養成講座の実践演習で日本語の授業を受けているのは外国人の役をやっている日本語母語話者です。単語であれ文法であれ、何を聞いても理解できないものはありません。そのため、実際の授業では通じないであろう説明でも、演習ではそのまま問題なく受け入れられてしまうことになるわけです。

 養成講座の実践演習とは異なり、実際の日本語の授業では、単語でも文法でも、それが未習なのか既習なのかを1つ1つ慎重に扱わなければなりません。講師は、単語1つ、文法1つを慎重に丁寧に扱うという意識をまず持たなければならなりません。

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